その壱
見張りの目を上手い事掻い潜り、二人は鳳凰殿を抜け、【奥之院】があるとされる場所まで密やかに移動してきた。
「流石に、ここには兵を置いているか」
気配を隠しながら、傍にいる仁兵衛にだけ聞こえる声で慶一郎は囁く。
仁兵衛は一つ頷き、どうしたものかと考え込む。
流石に重要な場所を任されているだけあり、並みの使い手出ないことは一目で分かった。一人ならば兎も角、二人で入り口を固められているため、一人ずつ受け持ったとしてもどちらかが危急を他の者に伝える恐れがあった。
時間は掛けられない、然りとて相手に気が付かれずに黙らせるほどの腕の差があるとは思えない。
(……明火の力を借りて一気に勝負を賭ける、か)
全力で闘えば間違いなく異変に気が付く者が出るだろうが、時間には代えられない。そう判断し、決意した瞬間、
「相棒、俺に任せちゃくれないか?」
と、慶一郎が肩を叩いた。
「……何か手が?」
真剣な眼差しで振り返った。
「まあ、勝手知りたる何とやら、ってね。お前さんが本気になったらあいつら殺しっちまうだろう。流石に、それは同門として忍びないわな」
苦笑交じりにそう返すと、慶一郎は自然体の儘、見張りの元へと歩み出した。
「誰ッ……?!」
誰何の声を掛けようとした見張りの二人は、慶一郎を見かけた瞬間、硬直した。
「ヨォ、御同輩。邪魔するぜ」
世間話でもしに来たかの様な気軽な態度で、何の衒いも無く片手を上げた。




