その六
「愚直なまでの律儀さも、千年近く続けば信用という名の武器となる、か。そこまで計算していたのならば、大したものだな」
深々とアルは頷いた。
「故に、魔王絡みの事件と出くわした時、他の陣営に邪魔されることなくこれに当たることが出来る。二人の魔王への強い恨みや憎しみを覚えますね」
クラウスの言に、
「あの二人は然ういう感情とは無関係とまでは云わないが、超越しているところがあった気がするがな。結果として、そう見られるのも致し方あるまいが」
と、アルは寂しげに首を横に振った。
「そうなのですか? 【組合】に関わっている扶桑人を見ていると、魔王に対する拭えないぐらいの強い何かを感じますけどねえ」
「まあ、昔話を通して強い憤りや敵愾心を抱かせ続けているのは否めないな。それこそ麻のように乱れた中原の情勢などほっぽって、魔王絡みの事件や事象の解決を優先させるぐらいには」
得心行かないクラウスに、アルは肌で感じていることを思ったままに話す。「そこに、初代と二代目の政治的な意向がないとは云い切れんがな」
「成程。そう考えると、今の中原の基礎と云うべき制度を発布したウルシム様と並ぶかそれ以上の政治家という史書の評価は正当なのでしょうけど……」
「他の面が目立ちすぎて、世間一般にはそう思われていない悲劇の英雄だな。どちらにしろ、誰にも真似が出来ない事をしでかした不世出の英雄だよ。小太刀の柄糸の件を取ってもそうであろう?」
「ああ、確かに。扶桑人を見て武人かどうか、腕が立つかどうか、どう見られているかどうかを知っていれば見極められるのは便利ですよね、役目柄」
アルの言に強く頷きながら、クラウスは、「偶に仁兵衛君みたいに敢えて付けていない人もいますけどねえ」と笑った。