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その弐拾七
(主様、周囲に人の反応はありません)
明火の言を得て、仁兵衛は手早く動きそうな部位を確かめようとした。
「相棒」
そんな仁兵衛を慶一郎は呼び止めた。
作業を止めることなく、目線だけ慶一郎の方に向けた処、
「焦るな」
と、諭された。
一つ大きな深呼吸をして、気を鎮める。
「落ち着いたか。お前さんの親父さんは天下一の武芸者だ。俺達が束になっても適わないような、な。一歩一歩着実に行こう」
仁兵衛にだけ聞こえる声で喋りながら、ゆっくりと梯子を上がってきた。
仁兵衛は心の中で一つ頷き、静かに床板をずらした。
音もなく慶一郎は一気に梯子を駆け上がり、素早く床の上へと上がり込んだ。
慶一郎の反応を見てから、仁兵衛は慎重に鳳凰殿へと身を滑り込ます。
左右を見渡し、人が居ないのを確認してから、互いに頷きあい、慎重に決めていた道筋で【奥之院】へと足を進めた。




