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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第四章 潜入
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その弐拾六

「鳳凰殿にも声が届きかねない辺りなので、御自重を」

 男の忠告に二人は黙って首を縦に振った。

 全くと言って良いほど櫓の音を立てず、男は静かに船を進める。

 真っ暗闇の中、ほんのりと照らし出される鳳凰殿に近づくにつれ、二人の緊張は増していった。自然体を心掛け、気配を殺し、得物を手元に引き寄せる。

 誰にも気が付かれぬ儘、男は鳳凰殿の床下へと舟を漕ぎ入れた。

 柱と柱の間を行く舟の中、低く身を伏せ、頭に当たりそうな梁を避けながら、目的地へと静かに進んでいく。

 やがて、それと知らなければ気が付かない柱と柱の陰に上に登るための梯子が現れた。

 二人は顔を見合わせ頷きあうと、梯子へと手を伸ばした。

 舟をその場に固定し、

「ご武運を」

 とだけ、男は告げた。

「帰りはどうすればいいのかね?」

 低い声で慶一郎は疑問を口にした。

「合図さえあればすぐにでも参りますが、御二方ならば如何なるやり方でも抜け出せるでしょう」

「そうだな。上様にそこら辺の判断はお任せするとしよう。そうでもなければ、こんな他人任せの経路など俺の主義にはあわん」

 慶一郎は苦笑で返した。

 仁兵衛はその間に梯子を登り切り、頭の上にある床板を丁寧に調べる。

 冒険者として様々な場所に入り込んだ経験から、仁兵衛は抜け穴というものを熟知していた。一見するとそうは見えない姿に偽装されている以上、他の場所よりも用心して作られているものだ。故に、用心して当たらなければ折角の好機を上にいる敵に知られる場合もある。

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