その弐拾五
「そこまで外道ではないと信じたいがね」
仁兵衛は苦笑する。「そういえば、貴公は【奥之院】を知っているのかね?」
「実在することは知っておりまするが、場所までは」
男は低い声で答えた。
「在るのは確かなのか」
多少驚きを含んだ声で、仁兵衛は男に問い糾した。
「それは。使命と裏表の関係なれば」
「……使命と? 意外な話が聞けたな」
慶一郎が興味深そうに呟く。
「不思議ではないかと。【旗幟八流】は本来この世ならざる者を斬るための刃なれば。我ら忍びの者はそれを補佐する役目を頂いておりまする。そして、その役目に誇りを抱いておりますれば」
静かな口調とは裏腹に、怒気を篭めた眼差しで鳳凰殿を見据えた。
「くくくくく、いやあ、面白いねえ。実に面白い。俺達表芸の侍が誇りを忘れ、裏に生きる忍びの方が大義のために死する覚悟を有す。雷文公がこの世を見ていたら何と思われるか」
気を抜けば大笑してしまいそうな心持ちをぐっと堪え、慶一郎は腹を抱える。
「その一人が自分の師匠だと云うことはどうなんだ、友よ?」
「ああ、あのクソ爺には引導を渡したかったから、丁度良いのさね。まあ、兄者には悪いが、一門の恥を何時までも晒しているわけにもいくまい。先生に対抗意識を持ちすぎて、退き時を誤ったんだ。過ちは正さなければ、な」
凄絶な笑みを浮かべ、溢れ出んばかりの闘気を押さえ込む。
「そうか、分かっているならば良し。後は、目的地まで気付かれずに向かうことだが」
考え込む仁兵衛を見て、
「なるようにしかならんだろう」
と、晴れやかな口調で慶一郎は笑い飛ばす。