その弐拾四
「まあ、余程のことがない限り、滅多にないことと考えるだろうしな」
慶一郎も肩を竦めた。
「御二方とも、既に魔王と戦われている。なればこそ、その危険性を認識される。我らも又、闇に生きる者なれば、使命の重さも又理解しておりますれば」
男の返事に二人は黙って首を縦に振った。
その気配を感じたのか、男は何も言わずに舟を漕ぐ。
「鳳凰殿から余り強い気配を感じないな。さてはて、何が出るやら」
暫く黙って気配を探っていた慶一郎がぽつりと呟く。「こっちから奇襲はないものと高を括っているか、もしくは俺に気配を探らせないほどの使い手を密やかに配置しているか」
「……居ないわけではないらしいが、思っていたより少ないようだな」
明火の力を借り、鳳凰殿一帯の生気を探った仁兵衛は力強く断言した。
「先生が何か動いているか、それとも他の理由からか。罠の線も捨てられないが、ここから侵入されると想定していない可能性も大、か」
「確かに。俺ならば、友が馬無しで仕掛けてくるとは考えないな。自分の師匠が敵に回っていると理解していると分かっているのならば」
二人は冷静に現状を解析していく。
「その上、先生の元にいるのならば、姫様を旗印に攻め込めば問題ないわけだからなあ」
仁兵衛の考えに慶一郎は頷く。「もしくは、【奥之院】を知られたくないか、だが」
「無いとは云い切れないな、それは。先生ですら実在を知らなかった場所だ。当主連中がひた隠しにする理由にはなる」
一理あるとばかり、仁兵衛は頷いた。
「実在が不明な場所で弑虐すれば、こっちに責任を擦り付けることも出来なくもない。何せ、誰も知らないのだから、どこで殺されたか分からないのだしな」
さらりと慶一郎は考え得る最悪を口にした。




