その弐拾参
「忍びの技は全て偸盗術なれば」
伏した人影は短く答え、「舟の用意は出来ておりますれば、こちらへ」と、蘆の中へと分け入った。
二人はその後を追い、隠されていた船着場へと辿り着く。
「こいつは驚いた。蘆の陰に隠してあるとはね。他にもあるのかい?」
純粋な興味から慶一郎は先導する男に尋ねた。
「いくつかは。そろそろ参りましょう」
男に促され、二人は小舟へと乗り込む。
静かに舟を岸から離すと、これまた静かに櫓を漕ぎ出した。
「目印もなく行けるものなのかね?」
「慣れておりますれば」
慶一郎の問いに短く答え、男は静かに櫓を漕ぎ続ける。
「敵方に付いた忍びはいるのかね?」
「おりませぬな。我らは使命を理解しておりますれば」
立て続けに質問を飛ばしてくる慶一郎に対して嫌な気配一つ見せずに男は答えた。
「使命?」
「左様。東大公家に課せられた使命にございまする」
聞こえるか聞こえないかの低い声で男は答える。「冒険者互助組合にて仕事を為されていたのならば御存知なのでは?」
「……誰でも彼でも知っている内容だとは思わないがねえ」
慶一郎は思わず苦笑した。
「されど、御二方は御存知のはず」
確信を持った口調で男は返事をした。
「この世ならざる者を討つ、か。音に聞く古伝の神刀流や天狼神刀流の理念に近いな。柴原神刀流は対人剣術、だが」
苦笑気味に仁兵衛は呟いた。




