その弐拾弐
慶一郎の言い分にも一理も二理もあることぐらい仁兵衛も理解していた。
元々、鳳凰殿とは扶桑より渡ってきた時に、扶桑で発達させた建築技術の粋を失わせまいと考えた雷文公や一部の貴人が水上宮殿を威信を懸けて築き上げたものである。当然、警護面から反対意見や三日月湖を大きく囲んだ縄張りを進言する者もいたが、当時の情勢からそこまで資金を回せなかった為に、警護の兵を置くことで代わりとした。
その後も鳳凰殿の守りに関する奏上は幾度も行われたが、様々な情勢への配慮から保留案件として先送りされてきた。その分、北岸警備の兵は精鋭を当てることとなった。
「本来は誰が守っているはずだったのだ?」
仁兵衛は独り言のように呟く。
「さあな。先生の口ぶりからすると、鳳凰殿の船着場すら知らない木端武者の様だがな」
不機嫌そうに慶一郎は返事を返し、辺りを見渡す。「居ないって事は、敵方について持ち場を離れたんだろうよ。どちらにしろ、風上にも置けぬ奴よ」
「確かに、味方にしろ、敵にしろ、身内には居て欲しくない輩だな」
仁兵衛は相鎚を打った。
「さあて、何時まで待つことになると思う?」
「そんなに待たずにすみそうだがね。気配はある」
そう答えた後、「問題は、どこにいるかが分からない事だが。中々どうして、怖ろしい使い手だな」と、呟いた。
「お褒めに与り恐悦至極」
闇よりぬっと現れた人影は、二人の間合いから少しだけ離れた位置に跪いていた。
「こいつは驚きだ。俺達の間合いを読んでやがる。そいつも、偸盗術ってやつかい?」
そう楽しそうに顕れ出でた人影に慶一郎は問いかけた。




