その弐拾壱
「連絡を密にするのは良いことですな。出来れば、の話ですが」
「まあのお。流石に手練が集まっていよう宮城には送り込めぬからの」
兵四郎は苦笑する。「こちらも手練揃いじゃが、当主やそれに準じる使い手の目を誤魔化すほどの忍びはそうはおらんからの。まあ、宮城の外ならば問題なかろうて」
「内に入れば何ら支援無し、と。ははは、戦人の血が滾りますな!」
低く吼えるように慶一郎は笑った。
「滾らすよりも冷静、冷徹に気を内に秘めるべきだと思うがね」
仁兵衛は溜息を付く。「我らの仕事は密やかに親父様を救うことであり、道場破りをすることでも、陽動を仕掛けることでもないのだから」
「分かっている、分かっている」
ちっとも分かっていない表情で、慶一郎は浮かれて鼻唄交じりに具足を脱ぎ出す。
「やれやれ」
再度大きな溜息を付くと、仁兵衛も身に纏う具足を取り外した。
蘆が生い茂る三日月湖の北岸から鳳凰殿を眺めれば、ひっそりとしており、普段の様とは明らかに違った。むしろ、ここまで何の咎めもなく入り込める時点で異常と言えた。
「やれやれ。宮城を抑えるので敵さんは手一杯ってことかい。今のところ、先生の読み通りだねえ」
慶一郎は慨嘆する。「全く、ここを抑えなければ忍び込まれてお終いだろうに」
「今はその方が都合が良いから何とも云えないな」
仁兵衛は苦笑で返した。
「それはそうだがな。不用心にも程があろうに」
むすっとした顔で慶一郎はぼやいた。




