その五
「そう思える連中が多ければ問題ないのだがな。何せ、冒険者にとってはウルシムよりも人気のある成功者だ。夢見たくなる気持ちは分かるが、真似できるものではないのだから、そこら辺は弁えて欲しいものだが」
苦笑しながらアルは、「絶滅されたら、私の食い扶持が無くなるからな」と、冗談めかす。
「夢見るだけなら良いんですけどねえ。才能ある連中ほどのめり込むから質が悪い。無駄遣い出来るほど人手が足りているわけでもないんですがね」
「それこそ扶桑人がこの地に移り住んでくれなかったらぞっとするほどに、な」
アルは低く笑いながら、「それにしても、扶桑人はよくよく魔王と縁がある」と、呟いた。
「そうですか?」
アルの呟きを不思議そうにクラウスは問い返した。
「ああ。故郷を魔王に追われ、辿り着いたこの地でも魔王絡みの事件に出くわす。そうそうあり得ないことだと思うがね。魔王に祟られているかのようだよ」
そんな馬鹿なことはないだろうがな、と付け加えながらアルは呵々大笑する。
「小父さんが云うと洒落にならないなあ」
クラウスは思わず苦笑する。「まあ、ここ最近魔王絡みの事件が多いのは認めますがね。それに、どちらかと云えば、扶桑人の方から魔王に関わっているんだと思いますよ。初代と二代目の東大公が決めた方針が、結果として魔王と相対することになるものじゃないですか」
クラウスの言に、「ふむ」と、生返事をし、アルは少し考え込む。
この地に移り住んでからの扶桑人の生き方は、初代と二代目の二人が決めた指針が大きく影響している。初代の定めた“雷文公式目”に二代目が規定した諸侯同士の争いには自ら介入しないという暗黙の了解である。
“雷文公式目”の狙いは西中原人に扶桑人を受け入れて貰う為に、自分たちの文化より生まれいでし慣わし事を意図的に際立たせることで、扶桑人自身の意識をもそうあるべしと強く思い込ませる為の道具とすることであった。実際、何の後ろ盾もない扶桑人の集団が大多数の西中原人に迫害なり差別なりされなかったのは、己を弁え、郷に入りては郷に従う扶桑人気質と“雷文公式目”でより強調された律儀さが受け入れられたからである。