その弐拾
「物騒な喜び方をしますな。まあ、先生らしいと云えばらしいですが」
苦笑する慶一郎に、
「何、彼奴原に教えてやることが増えたのは喜ばしき事よ。役目柄のお」
と、殺気を抑えることなく大笑した。
「猛るのは一向に構わないんですが、やり過ぎないで下さいよ。ああ、でもある程度は先生が目立たないと俺達がやりにくくなるのか。しかし、先生が前に出過ぎたら出過ぎたで、今度は上様を人質に取られる可能性も高いから、痛し痒しですなあ」
慶一郎は思わず苦笑した。
「どちらにしろ、親父様を救わねば話が始まらないと云うことだ」
強い意志を篭めた瞳で、兵四郎を見る。「救出後の脱出経路は?」
「逆に辿るも良し、中央突破するも良し。合図さえあれば、儂らはいつでも飛び込めるようにしておこう」
にやりと笑い、兵四郎は易々と請け負った。
「すると、どうやって連絡を取り合うかが問題になりますな。狼煙でも使いますか?」
「止めておけ、止めておけ。何が起こるか分からぬ以上、単純すぎる手は齟齬を生む。ある程度硬い手を使うべきじゃろうな」
暫し考えてから、「儂の手の者を使おう。確実とは云えぬが、この距離ならば何とでもなろう」と、決断した。
「先生の手の者? 忍びの者ですか?」
「如何にも。古くから使っておる者共故に、心知れたる者が多い。それに、鳳凰殿に送り込むときに使う船頭もその中の一人故、丁度良かろう。どちらにしろ、夜明けには本陣をオストシュタット付近まで押し上げる必要があろうし、忍びの者を使番がてら使うのも問題あるまいて」