その壱拾八
「相手方の【旗幟八流】当主どもがどう動いているかまでは流石に読み切れん。全員【奥之院】に集結しているやもしれぬし、宮城を掌握するために動いているやもしれぬ。何が起きるか儂も読み切れぬ故、無理だと悟った時点で退くのじゃぞ。最悪、儂自らが力押しをすることも考えておるからのお」
「流石にそれはさせませんよ、先生。宮城に攻撃を仕掛けるなど、上様の許可があっても後で如何なる沙汰が降るか分かりはしませんぜ」
悲壮なる覚悟を決めている兵四郎に、慶一郎は心配そうに声を掛けた。
「覚悟の上よ。所詮は本来隠居の身。上様の好意でこの役目を頂いたのだ。上様のためならばいつでも捨てる覚悟よ」
強い決意を込めた口調で兵四郎は言い切る。
「爺、無茶は駄目だよ」
「ははは、姫様、問題ありませぬぞ。この兵四郎、無茶は為しませぬ。やれることをやっているだけですからな」
不安そうな表情を浮かべる光に、兵四郎は自信満々豪快に笑い飛ばした。
「先生の云うところの時を無駄にする説明のお陰で、何ら不安無く策通りに動けそうですがね、如何なる奇術を以てして、宮城に入り込むのか教えていただけるんですかね?」
「良かろう。一刻も争う事態なのは変わりない。まずはお主ら二人、山を越えた先にある街の東大公家代官所に駆け込み、檄文を送り届けよ。代官所は明田の管轄であるから、儂らの味方じゃ。それに、儂の息が掛かった者が幾人か居る故、それらの者に便宜を図らせ、お主らは雑踏に紛れ、河を下りオストシュタットに荷を運ぶ船に紛れ込め。この時、こちらを見張っているであろう追っ手の目を眩ますために、代官所の荷運びに混ざるが良い。鎧は鎧櫃に入れ、荷の中に入れておけ。オストシュタットに着いたならば、そのまま本町の奉行所まで荷を運び込む様見せかけ、途中で教導隊の隠れ家へ移るのだ。前もって、お主らを案内する者は潜ませておく。日が暮れてから、外洋船の出る船着き場へと向かい、海を経由して扶桑人街の北に在る三日月湖の対岸に送り届けて貰え。お主らが辿り着く前にその様に手配しておく。後は三日月湖に隠してある舟より鳳凰殿にある隠し船着場に潜り込む。後は、姫様の云われた場所にお主らが行くだけじゃて」