その壱拾七
「他に手立てがある、と?」
兵四郎の態度を見て、慶一郎は類推する。「姫様の言を聞き、そこからなら近いと云われたこと、冒険者互助組合の抜け穴を知りながら特に用いようとしないこと、それでいながら強攻策をとろうとしないこと。宮城に、誰もが気付かない穴でもあるのですか?」
「まあのお」
慶一郎の推測に対し、曖昧な答えを兵四郎は返す。
「問題でも?」
「潜入自体には問題はあるまい。お主らならば、儂の計画通り宮城に入り込めようよ。問題はその後よ……」
「その後、ですか?」
不思議そうな顔付きで慶一郎は聞き返す。「上様を捜し出して終わり、じゃないんですか?」
「それはそうなのじゃがな。ふむ……儂や仁兵衛なら兎も角、お主、馬無しでアレに勝てるか?」
酷く思い詰めた顔付きで、慶一郎を兵四郎は見た。
「……ははぁん、アレというと、師匠のことですか?」
興味深そうな笑みを浮かべ、慶一郎は兵四郎を見返す。
「有無。今回の件で、一点だけ問題があるとすれば、あの男よ。宮中だろうとお構いなしで、あやつは馬に乗っておろうが、儂の計画でいくならば、お主は馬無しでアレの足止めを最低でもやって貰わねばならん」
「ああ、そりゃあ、きつい話ですね」
慶一郎は笑い飛ばし、「まあ、足止めぐらいならやって見せますよ。そろそろあの戦狂いの爺にも隠居が近いことを教えてやらないとねえ」と、凄絶なる表情を浮かべた。




