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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第四章 潜入
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その壱拾四

「戦場往来している連中にすれば有名な話さ。“翠緑の颶風(ぐふう)”と云えば、泣く子も黙る戦場の代名詞だからな」

 我が事のように慶一郎は語って聞かせる。

「何、儂なぞまだまだよ」

 兵四郎は首を横に振る。「雷文公様のように、戦わずして勝つことこそが目指すべき道よ。戦働きを怖れられるようでは、将として未熟」

「その威名が争いを避けるのにも役立ちましょうから、一概にそうとも云い切れないかと」

 仁兵衛は思ったままに口にした。

「それまでに流した血の量が未熟を表すのよ。それを自戒として抱き続けるのみ。お主らは真似ぬようにな」

 苦笑しながら、兵四郎はその場にいる若い者へ述懐した。

「先生の居場所が分からない限り、連中も大きな動きをすることはなさそうだな」

「現在盤面を唯一力押しでひっくり返せそうな存在だからな。その上、俺達が逃げ込んだ。玉を完全に取り込めていない以上、有利な状況を態々投げ出す真似もすまい」

 ふと、なにやらおかしな様子の沙月を見て、「如何為された?」と、仁兵衛は尋ねた。

「いえ……、なにやら急な頭痛がしただけで。問題ありませんわ」

 心配そうに見詰める光に沙月は頬笑み返す。

「ならば良いが。無理は為されぬ事だ」

 打ち倒した手前、強く言えない仁兵衛は労る態度を示した。

「ま、俺も云えた口じゃないが、相棒と遣り合っている時点で無理をしている気もするがね」

 冗談めかして慶一郎は戯けてみせる。「それに、無理して思い出す事はないさ。オストシュタットにいる【旗幟八流】の当主全員が怪しいと分かっていれば、それで充分。後は何とでもなるさね」

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