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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第四章 潜入
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その壱拾参

 苦笑する慶一郎の言葉を継ぎ、

「陰陽師の方は多少なりとも冒険者互助組合で東大公家寄りの依頼を受けていれば、向こうからやって来る。大抵の人間はそこで魔導師との違いを聞くこととなる。これも又、命に直結する話だからな」

 と、仁兵衛は真面目な顔付きで答えた。

「どちらにしろ、冒険者互助組合絡みの仕事をしていれば、東大公家か南大公家絡みの話が出てくるでのお。あやかしの術が割りと身近な話として話題となるのは当然の帰結であろうな」

 二人の話を兵四郎はそう纏めた。

「ああ、先生も組合絡みの仕事していたんでしたっけ、若い頃」

 慶一郎はそれに思い当たり、ぽんと手を打つ。

「まあのお。この鎧も南大公猊下より直々に拝領したものよ」

「成程。道理で、南大公家の象徴色である緑を(おどし)に用いているわけですな」

 得心がいったのか、仁兵衛は深々と頷いた。

 黄色が東大公家の象徴色として名高いように、緑色も又南大公家の象徴色として中原中に知れ渡っている。正確に言えば、南大公イアカーンではなく、その父知識神ウルシムが好んでいた色なのであるが、子であるイアカーンも好んで使う為に長い時の流れの間で南大公家の象徴色として認識されるようになった。

 別段、誰が使っても問題ないのだが、公の場でその種の象徴色を使った衣装や装飾物を着用していると所縁(ゆかり)の者として認識されがちの為に、避けるようにするのが習慣となっている。

 特に、扶桑人の武人は小太刀の柄糸の色絡みの問題もあり、己に許された色だけを(まと)うことを慣例としていた。ただし、貴人の色である、黄色と緑色は畏れ多いとして使う者はまずいない。

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