その壱拾壱
「お前の懸念通りよ。明田が抜けたことにより、政が捗らなくなることを怖れたが故よ。あの方は常に二手三手先を最低でも読む。そして、その為の努力を怠ることはない。だからこそ、裏をかかれることが少ないのだ」
「しかし、今回ばかりは腑に落ちないことが逆に多い」
慶一郎は真面目な顔で呟く。「扶桑人の中でも上様ほどの“目”を有した才を有する者は少ない。先生が上様の対局者ならば兎も角、ここまで綺麗に裏をかく。先生が内通者の存在を確信するわけが分かりましたよ。これはどうにも焦臭い」
「故に急がねばならぬ。奴らの動きが変わる前にな。幸いな事に、こちらが仕掛ける時間にはまだ余裕があるから良いモノの、こうも長々と説明させられるとは危うく無駄な時間になるところであったぞ」
微妙な表情を浮かべた後、兵四郎は光の傍に控えている沙月を見る。「それで、心当たりはないかね?」
「無い訳ではないと思うのですけれど……」
沙月は申し訳なさそうに答えた。
「ふむ。記憶があやふやとはなあ。やはり並大抵ではない術者が敵方にいると見える。陰陽師ならば兎も角、中原様式の魔導師ならば厄介な事になり得るぞ」
深刻な表情で兵四郎は頭を悩ます。
「魔導師ねえ。相棒、お前さん、生まれてこの方何人見たことある?」
何か考える顔付きで、仁兵衛に水を向ける。
指折り数え、
「片手で数える程度だな。腕がいいを付け加えると、クラウスさんぐらいだろうな」
と、仁兵衛は淡々と答えた。
「魔術師はごろごろしているんだけどなあ」
慶一郎は笑い飛ばす。「どんどん焦臭くなってきたなあ、おい」




