その四
「聞いていて破天荒で面白いですからねえ、あの二人の英雄譚は」
同感とばかりにクラウスは頷いて見せた。
事実、【組合】の店であれ、酒場であれ、吟遊詩人がとりあえず様子を見る為に何かを謡うとすれば、ウルシムか頼仁の有名処の冒険譚を選べば外れはしない。二人の内いずれかの一生を謡うことが出来れば一生食うに困らないし、知られていない物語を見つけ出したら巨万の富を得るとも言われている。
「まあ、それにしても、ここまで繁栄することを予測して“雷文公式目”を考えたのだとしたら、柴原頼仁という男、恐るべき英傑ではあるな」
「そりゃ考えていたんじゃないんですか? 国を出奔した後、身一つでこの地まで流れてきただけでも十分なのに、百万あまりの民が長い月日を掛けて蘇の国を横断し、アルスラント東部域まで流れ着けるように根回ししていたんですから、余程大したモノですよ」
「扶桑の主上の異母兄を父とし、史上最強と呼ばれた剣鬼の娘が母親。早くに両親を亡くし、剣鬼である祖父に育てられ、長じては父の敵でもある魔王を宿した親王から国を護る。その魔王の調略で朝廷を放逐されそうになる前に先手を打って出奔。その際、最後まで魔王に立ち向かい、降伏すら許されなくなるであろう自らの支援者の一族郎党達を国外に逃がす為の下準備を整えてから国を脱した。一説によれば、扶桑の国で位人臣を極めていた時、決して後ろ暗い方法を用いずにこの世の誰よりも財をなし、その全てを扶桑の民がこの地に辿り着く為の軍資金となったと云う」
「その為に、文無しになった後、蘇の西の端の街で行き倒れていたところを、政変で追われた皇太子パルジヴァルを連れて逃げていたウルシム様と出会い、意気投合し、西中原の地に足を踏み入れた。冒険者として東部域に埋もれる神代の時代の遺跡や迷宮を巡っている間に、気が付いたら再び巨万の富を得ていた。なんと云うか、ここまで来ると、出来過ぎを通り越して、逆に怖いぐらいですよね」
しみじみとクラウスは感心した。