その壱拾
「随分と高い買い物だなあ、信義だとしても」
まだ得心しないとばかりに、慶一郎は反論した。
「いや、むしろ安い。この国における我ら扶桑人の身の安全、交易による収支、冒険者互助組合から出る利益。数え上げれば、我らが手に入れている富は想像以上になる。どうして、中原の民がそれに嫉妬しないと云える? 我らが律儀者で、その財貨を中原の為に使っていると示し続けているからこそ、排斥されずにすんでいるのだ。ならば、租借料などその為の必要経費に過ぎぬ。額はどうあれ、我らの中原への忠誠を示せるのならば安いものだ」
「“ドゥロワの乱”でも払い続けていた理由は?」
興味深そうに慶一郎が仁兵衛に訊く。「そこまで見えたんだ。理由は分かるんだろう?」
「皇家への忠誠を示す為。東大公家が従えぬといった相手は皇太子であり、皇家ではないと形で示し続けた。故に、東大公家に対して、表だった討伐はなかった。……と、父上から聞いたことがあるから、俺の考えではないなあ」
苦笑しながら仁兵衛は肩を竦めた。
「ああ、そういえばそうか。お前さんに知識を授けたのは上様か。そりゃ、一度答えが纏まれば懸河の弁って処か」
納得がいったとばかりに、慶一郎は笑い飛ばした。
「そこまで分かっておるなら後は分かるじゃろう。“一統派”の危うさ、がな」
至って真面目な顔付きで兵四郎はそう口にする。「あやつらはあやつらの見たいモノしか見ておらぬ。他の者の意志など考え及ばないのだ。だからこそ、あの様な無謀な真似をして自分たちに支持が集まると信じておる。明田の一門が東大公家の政から抜けた時点で東大公家が回らなくなるのも理解せずに、な」
「もしかして、上様がいの一番に明田を説得したのは……」
真剣な顔付きで慶一郎は兵四郎を見た。




