その九
「どういうことで?」
慶一郎は腑に落ちないとばかりに聞き返す。
「明田は文官の家系故にな、物事を数で見る癖がある。そう見ると、東大公家の無駄が見えてきてな。それを是正したくなるのよ。まあ、皇家無き今も土地の租借料を払っているのは莫迦らしく思えるのは分からぬでもない」
苦笑しながら、兵四郎は右手で顎髭を撫でる。「上様はそれを辛抱強く説得し、明田の連中も又納得したわけだ。租借料を払い続けることが、我らの大いなる利益になると云う事にな」
「租借料ってあれですよね? 初代が皇国に土地を借りる際に毎年その使用料を払うという約束をして、代々払い続けてきたという。“ドゥロワの乱”の時も払っていたんですか? 皇家に逆らっていたというのに?」
信じられないとばかりに渋い表情を浮かべ、慶一郎は首を横に振った。
「そう考えるのが並みの人間よ。代々の上様は我ら凡夫の想像の上を行った。租借料を払うことで得られる莫大な資産の為にの」
兵四郎はにやりと笑い、我が事のように自慢した。
「莫大な資産ねえ? 租借料って、東大公家五百万石とも六百万石とも呼ばれている広大な土地の使用料でしょう? 並大抵の額とは思えないんですがねえ」
「……友よ、答えは前に出ていたぞ」
仁兵衛は暫く悩んでからぽつりとそう言った。
「ほう」
慶一郎が仁兵衛に問い返す前、興味深そうに兵四郎が息を付いた。
「信義、だ」
短く、仁兵衛は断言した。
「……見ているところは見ていると云うことか。流石は上様、良き者を拾いなさる」
その答えを聞き、兵四郎はにやりと笑った。