その七
「起こすのではない。起こさせるのだ」
渋い表情で兵四郎は端的に答えた。
「……待って下さいよ。もしかして、今回の件って、あっちの暴走などではなく……」
嫌な予感でもしたのか、慶一郎は思わず声を潜める。
「儂の認識が正しければ、上様は間違いなく“暴発”させたのだ。時期にずれが生じたが、な」
「まさか」
「いいや、上様は昔から然ういう処があった。変なところで博打に出るのだ」
深々と溜息を付きながら、「ここ一番の土壇場になると何故か勝負師の血が騒がれるようでな。伸るか反るかの大博打を打たれる。非常に心の臓に悪い」と、ぼやいた。
「んー、父様、そんなに賭け事好きだったのかなあ?」
光は独り首を捻った。
「何、男児たる者、この様な大博打は兎も角、賭け事は好きなものですよ。自分の子供の前では表に出すことはないでしょうがね」
慶一郎は共感したかのように頷く。「それはそうと、先生。そこまで云うからには、何かしらの証拠があるのでしょうね?」
「まあのお」
兵四郎は懐に仕舞っていた封書を数通取り出した。
「それは?」
「宛先を見れば分かる」
つまらなそうに慶一郎に手渡した。
「どれどれ。えっと、兄者宛、柏尾豺蔵宛、米山左近……。上様に近しい部将ばかりですなあ」
「何かあった際、儂が檄文と共に送る手はずになっておる。まあ、要するに、今、じゃが」
七面倒臭そうに兵四郎は溜息を付いた




