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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第四章 潜入
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その七

「起こすのではない。起こさせるのだ」

 渋い表情で兵四郎は端的に答えた。

「……待って下さいよ。もしかして、今回の件って、あっちの暴走などではなく……」

 嫌な予感でもしたのか、慶一郎は思わず声を潜める。

「儂の認識が正しければ、上様は間違いなく“暴発”させたのだ。時期にずれが生じたが、な」

「まさか」

「いいや、上様は昔から然ういう処があった。変なところで博打に出るのだ」

 深々と溜息を付きながら、「ここ一番の土壇場になると何故か勝負師の血が騒がれるようでな。伸るか反るかの大博打を打たれる。非常に心の臓に悪い」と、ぼやいた。

「んー、父様、そんなに賭け事好きだったのかなあ?」

 光は独り首を捻った。

「何、男児たる者、この様な大博打は兎も角、賭け事は好きなものですよ。自分の子供の前では表に出すことはないでしょうがね」

 慶一郎は共感したかのように頷く。「それはそうと、先生。そこまで云うからには、何かしらの証拠があるのでしょうね?」

「まあのお」

 兵四郎は懐に仕舞っていた封書を数通取り出した。

「それは?」

「宛先を見れば分かる」

 つまらなそうに慶一郎に手渡した。

「どれどれ。えっと、兄者宛、柏尾(かしお)豺蔵(さいぞう)宛、米山(よねやま)左近(さこん)……。上様に近しい部将ばかりですなあ」

「何かあった際、儂が檄文と共に送る手はずになっておる。まあ、要するに、今、じゃが」

 七面倒臭そうに兵四郎は溜息を付いた

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