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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第四章 潜入
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その五

「先生、こいつは正気ですかい」

 滔々(とうとう)と語られた兵四郎の策を聞き終わり、思わず慶一郎はそう口にした。

「どうした、臆したか、若いの?」

 兵四郎は笑い飛ばす。「儂の若い頃は、これよりも酷い綱渡りをしていたもんじゃて」

「先生の若い頃って、この乱世の始まりになった“ドゥロワの乱”の末期じゃないですか。乱世の中の乱世と妙に安定した均衡状態の乱世を一緒にしないで下さいよ」

「余り変わらん。この儂が言うのだ、間違いない」

「いやいや、違いますから。間違いなく違いますから」

 自信満々に告げる兵四郎に、慶一郎は慌てて否定する。「相棒も何か云ってくれ!」

「綱渡りなのは一向にかまわない。ただ、これで親父様を救えるのか?」

 真剣な顔で仁兵衛は周りに問う。

「さて、の。そこまでは明確に何とかなるとは云い切れぬのお」

 兵四郎は真面目な顔付きで答え、「まあ、儂の予測ではお主らの働き次第じゃが、割りとどうとでもなると出ておるがの」と、笑い飛ばした。

「その根拠をお聞きしたい」

 仁兵衛は猶も食い付く。

「良かろう。まず、敵の布陣じゃが、斥候(せっこう)の情報とお主らからの報告から推察し、玉光明鏡流が宮城の外を担当しておる。これは妥当な処じゃろうな。奴らは素肌剣術故に、装備が軽装。そこまで威圧的でないが、何かあった時即座に対応出来る程度ではある。無用に民を逼迫(ひっぱく)させることなく抑えられよう。無辜の民を傷つけた時点で、奴らの云い分は誰も聞く耳を持たなくなるからのお」

 扶桑人街の詳細な地図を指差し、兵四郎は淡々と説明した。

「まあ、街廻り役の壬生狼(みぶろ)を追い出したんですからそれはそうでしょうな」

 先程とは打って変わって、冷静な表情で慶一郎は頷いた。

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