その四
「分かっている」
むすっとした顔で仁兵衛は答える。
「ま、納得出来る話じゃないだろうが、折り合うしかあるまい」
取りなすように、仁兵衛に慶一郎は助言した。
「折り合う、ねえ。何でこうなったんだろうなあ」
自分自身に言い含めるかのように繰り返した後で、思わず仁兵衛はぼやいた。
「そりゃあ、帯刀さんに拾われたからだろう?」
慶一郎は即答した。
「親父様かあ。あの人に出会っていない俺など、今からだとちっとも考えられないしなあ」
静かに頬笑み、空を見上げる。「野垂れ死にしそうなところを助けてくれた、生き方を教えてくれた、男の生き様というものを見せてくれた。何一つ、この恩を返せそうにない。だから、俺は何か一つでも親父様の力になりたい」
「良いんじゃないの。それが理由で」
「そうだな。そうだろうな。親父様を救う理由など、これぐらいで良いか。他の面倒事は、関係ない」
慶一郎の答えを聞き、仁兵衛は一人納得する。
「ああ。余計なことまで背負わずとも良いんだよ、俺達は。然ういう面倒事は全部上様と先生に押しつければいい。その為にも、今回の策は成功させないとな」
「策、か。上手く行くと思うか?」
半信半疑といった表情で、仁兵衛は慶一郎を見た。
「さてねえ。戦場での先生の読みが外れたことがないのは確かだが、今回は微妙な処だねえ。博打みたいなもんさね」
慶一郎は思わず苦笑する。「何にせよ、先生があんな策を立てると云う事は割りと追い込まれているって事だからねえ。潜入するまでは上手く行くと思うが、そこから先は俺達次第、敵さんの動き次第って処かねえ」