その参
「私とて、君の親戚のようなモノなのだから、その家族の分類にならないのかね?」
クラウスの答えを聞いて、アルは心外だなとばかりに聞き返した。
「小父さんを家族と認めるぐらいなら、東大公家が南大公家の兄弟だと云う方がまだ分かりますよ」
真顔でクラウスはそう答えた後、お茶を口にした。
「やれやれ、冷たいことだ。まあ、確かにウルシム・ヴァシュタールと初代東大公柴原頼仁は無二の親友であり、義兄弟とでも云うべき間柄であった。ウルシム直系の君が東大公家の者を兄弟家族というのは分からないでもないが、その東大公家自体が頼仁の直系でないのは皮肉としか云い様がないな」
「今の柴原家も二代目東大公阿賀鳴雲の直系ですからねえ、実質上」
クラウスは苦笑した。
「うむ。頼仁の直系は御近所のフォン・ウェゲナーの家系になるからな。まあ、娘が柴原を継いだ鳴雲の息子に嫁入りしているから血のつながりが全くないわけではないのだがね」
ふと、考える表情を見せてから、「あれだけ女遊びが激しかった男が子を余りなしていないというのもある意味で不思議な話だがな」と、アルは首を傾げた。
「まだ、扶桑にいた頃からそんな感じだったという話ですからねえ。蘇を横断していたときも持てたでしょうから、本来なら今や血を引く者だけで一国が出来る程度いないとおかしいんですけどねえ」
うーんと唸りながら、クラウスは答える。
「遙か東の島国から東の中原を抜け、真なる中原を渡り、この地までやって来たわけだからな。御落胤を名乗る者がちっともいないとなると不思議な話よな。いやはや、ここまで来ると何らかの要因が頼仁自身にあったと思う方が自然やもしれぬな」
真面目な表情でアルは相槌を打った。
「吟遊詩人としては、興味尽きない対象ですか?」
にやつきながら、クラウスはアルに尋ねる。
「それはもう、そうに決まっているだろう。何せ、ウルシム・ヴァシュタールと柴原頼仁はその一生を謡えれば食いっぱぐれはないと云われているぐらいだぞ。実際、何もないときに一番頼まれるのは二人の英雄譚が断トツだ」