その七
「即ち、時の帝の姫を賜ったからこそ、雷文公の後継者として衆目の一致を得た、と?」
帯刀の長広舌を彦三郎は端的に纏める。
「然り。雷文公の剣の後継者であり、武人として永らく扶桑を支えてきた功臣であり、駙馬でもあった。故に、誰もが扶桑人の顔として認めたのだ。雷文公に扶桑人の子がおらなんだからな」
帯刀はそれを認めると、にやりと笑った。
「そして、今に続く、と?」
「うむ。余を含めた、竜武公と内親王の血統が東大公家の継承者となった。まあ、雷文公の姫を娶った竜武公の公子が柴原を名乗ったのだから、然ういう意味では世にも雷文公の血は流れておる訳だがのお」
「然らば、扶桑人であり、柴原神刀流の後継者であり、東大公家の駙馬となりし者ならば東大公の座を継げる、と」
「極論を云えばそうなるのお。まあ、そのことに気が付いておるのは、多分平原兵四郎を措いて他にあるまいて」
念を押す彦三郎に、帯刀は自分の推察を述べた。
「陥陣営?!」
彦三郎は思わず叫び声を上げる。
「如何にも。あの老将、戦術だけではなく、戦略政略にも造詣が深く、古今の出来事を良く理解しておる。まあ、余が死んでも、あの爺様が生きておる限り謀反人どもに打つ手はあるまいて。何せ、何も理解していなかった仁兵衛に光を掻っ攫われるぐらいだかのお」
腹を抱えて笑いたいのを我慢しながら、帯刀は無理矢理顔を顰めて見せた。
「……確かに、見事なぐらい鮮やかな手並みでしたな」
東大公家の内々の護衛を任せられている身としては諸手を挙げて誉められないためか、複雑そうな表情を浮かべる。




