その五
「成程、云われてみればその通りでございますな」
得心がいったとばかりに彦三郎は同意した。
「その条件で云えば、一色助三郎やその弟弟子の原慶一郎辺りにも資格があろうよ。強いて云えば、本来ならば遠藤沙月辺りもその部類になろうな」
帯刀は如何にも楽しそうに笑う。「いやはやいやはや、多士済々とは正しくこのことよ。まだまだ捨てたものではないなあ、我が邦も」
「……上様。上げられた者の中に、御猶子殿が含まれぬようですが」
幾分か間を取り、怖ず怖ずと彦三郎は問いを発した。
「ふむ、仁兵衛か。アレを、その中に含める愚を余は犯さぬ。おことも分かっておろうに、なかなか意地が悪いの」
「御冗談を。皆目見当も付かぬ故にお聞きした次第なれば」
笑い飛ばす帯刀に恐縮しながら、重ね重ねその答えを求めた。
「そうか? まあ、良いか。アレは既に【旗幟八流】の当主の一角を占めていてもおかしくない逸材よ。強いて云えば一色助三郎と同格やも知れぬが……親の贔屓目を抜いても十の内七は勝てよう。元々の才能もあったが、余と別れて以来の研鑽が余程深いと見える。神刀流に新たなる息吹を与えるのは間違いあるまいて」
にやにやと笑いながら、我が事の様に帯刀は自慢した。
「既に上様をも凌ぐと?」
「おいおい。まだ負けてやる気はねえよ。余もまだ現役だからなあ。まあ、近い将来、柴原神刀流の当主を譲る事にはなるだろうがなあ」
「上様。御猶子殿に東大公を継ぐ資格がない様に思われますが」
彦三郎は恐る恐る思い当たった事を口にした。
「ああ、東大公が柴原神刀流の当主である事という不文律か。些か例外なれど、前例はあるぞ。最初の虹の小太刀の所有者、阿賀孝寿は一度たりとも当主になっていなかったのに紫の柄糸を与えられていた。武幻斉の後を継いだのは実質上孝寿であり、雷文公が名跡を継ぐまでの間、神刀流を護っていた事を高く評価されての事だがのお。竜武公も、名目上の当主と実質上の当主が乖離すること自体は暗に認めておる。まあ、望ましくは、東大公になる者がその両方を得ているべきであろうがなあ」
思わず帯刀は慨嘆した。