その四
「然れば、【旗幟八流】の当主というのは表向きの事だと?」
流石にその答えを聞き、彦三郎は訝しむ表情を隠せずにいた。
【奥之院】とは東大公家の中でも知る者がほとんどいない、秘中の秘の一つである。【旗幟八流】の当主となってやっとその存在を知る者が大半と言える。それだけに、帯刀の発言は衝撃的であった。
「否。【旗幟八流】の当主ならば問題なく確実であるという事に過ぎぬ。【奥之院】に入る資格とは単純に兵である事」
驚きを珍しく隠せずにいる彦三郎に対し、単純明快な答えを返した。
「腕が立てばよい、と?」
納得がいかないとばかりに、彦三郎は反駁した。
「そうではない、そうではない。それは最低限の条件でしかない。【旗幟八流】の当主のみに許されたというのもまたそれに当たる。即ち、何故【奥之院】が存在するかという話だ」
「如何なる御諚で?」
「そればかりはお主にであろうと云えぬ。東大公のみが知りうる話である」
猶も引き下がろうともせぬ彦三郎をばっさりと切り捨てる。「それにしても、おことにしては妙に拘るの」
「流石に【旗幟八流】の存在意義に関わる問題なれば」
渋い表情を浮かべ、彦三郎は平伏した。
「ああ、よいよい。余とて東大公を継いでなければ知らぬ事だった故に、おことの憤慨は分からんでもない」
苦笑しながら、鯱張る彦三郎を宥める。「今は、【旗幟八流】の当主以外にもこの場に入る資格がある者がいると考えればよい。それに、当主引き継ぎの際、当主と継承者が同時に入る事もあろう。そう考えれば、さほど不思議な事ではあるまい」




