その参
「冷静な判断よのお。余も見習うべきかな」
帯刀は豪快に笑い飛ばす。「それで、勝てるかどうか、だな。馬に乗っておらねば勝てる。馬に乗っておる場合は、困った事になるがなあ」
「ならば、馬に乗って参りましょう。戦場におけるあの翁の為す事、相手が厭がる事を何ら恥じることなく平然と為すが故」
「やれやれ。厄介な事だな」
彦三郎の冷静な読みを聞いて、帯刀は思わず大きく溜息を付いた。
「いずれにしても、このままでは袋の鼠かと」
「だからと云って、表で待ち構える訳にもいくまい。それでは被害が大きくなりすぎる」
帯刀は静かに首を横に振った。
「援軍無き籠城ほど意味がない事はありませぬ」
その冷静な助言に対し、
「そう思うかの」
と、如何にも愉快そうににやにやと笑い始めた。
「上様?」
突然の豹変に、彦三郎は怪訝そうな顔付きをする。
「いや、すまんすまん。お主がそう思うと云う事は、誰しもがそう思っているのであろうな」
かんらからと豪傑笑いが止まらず、帯刀は腹を抱えて目尻の涙を拭い始めた。
「……何か、あるので?」
そこまで馬鹿笑い出来る事に思い当たりが全くなく、何故そこまで楽観的にいられるのか不思議に思った彦三郎は、意を決して帯刀に問う。
「考えれば分かる事ぞ。この【奥之院】に入る資格とはなんぞや」
笑みを収めると、静かな表情で帯刀は彦三郎に問い返した。