その弐
「致し方ないことかと」
何を言っても顔色一つ変えない彦三郎に、
「然り、然り。されど、面倒なのは変わらずよ。お主、【旗幟八流】の当主を二人相手にして無事でいるつもりかね?」
と、意地悪く尋ねる。
「役目なれば」
悩むことすらなく、彦三郎はすぐに断言した。
「余とてそこまで云い切れぬがなあ」
そう豪快に笑い飛ばし、「誰が一番最初に辿り着くかのお」と、首を傾げて見せた。
「何事もなければ、御老体かと」
その質問が来ることを予測し答えを最初から用意していたかの様に、彦三郎は悩むことなく即座に返事を返した。
「ふむ、一色与次郎か。大いに有り得る」
彦三郎の答えを聞き、我が意を得たりとばかりに大きく頷いて見せた。
「上様は一色翁に勝る秘策をお持ちで?」
何ら顔色は変わらねど、多少の好奇心を含んだ声色で彦三郎は帯刀に尋ねる。
「ふむ、それは確かに尋ねておきたき事柄よのお」
声色は面白がっているが、至極巫山戯た様子のない真摯な態度で帯刀は悩んで見せた。
「上様でも、勝ち目はございませぬか?」
些か意外そうな口ぶりで彦三郎は尋ねた。
「何だ、その口ぶりからすると彦三郎にはあの爺様に勝つための術はないと申すか」
「残念ながら、勝つことは能いませぬな。負けぬ戦いなら出来ましょうが、此度の一件でそれは許されぬ事かと思いまする」
揶揄するかの様な帯刀の問いに、口惜しさをにじませながら彦三郎は冷静に答えた。