その壱
「さてはて、これはこれで面白い状況ではある」
苦笑しながら、帯刀は床机に腰を下ろしていた。
「御意」
傍に控える中年の男が言葉短く答えた。
「全く、東大公に就いて戦支度をするはめに会うとはな」
黄色の直垂に扶桑様式と中原様式の良いところを折衷した鎧を身につけ、猩々緋の陣羽織を身に纏う。腰には小太刀と鉄扇、太刀は脚の間に立てて柄頭の上に両手を載っけていた。
「致し方がないことかと」
やはり口数少なく男は相鎚を打った。
「それにしても彦三郎。おことは誠に軽装よな」
帯刀は彦三郎と呼んだ男を羨ましそうな目で見る。「永善鬼眼流は柔に特化しているからとは云え、戦場でそれは無かろう」
「御意。されど、護衛の極意は己も生き抜くことなれば、動きやすさを優先せざるを得ないものかと。それに、この場に来られる者は限られておりますれば、乱戦を考える理由もなく、技の切れを優先した次第」
帯刀の嫌味を柳に風とばかりに顔色一つ変えず、彦三郎は受け流した。
「それも又、道理よな」
苦笑しながら、つまらなそうに相槌を打つ。「さてはて、予測通り【旗幟八流】の内、半分が敵に回ったか」
「その様子で」
能面のような感情を全く感じさせぬ顔付きで、彦三郎は返事をする。
「少なくとも、四人の当主と相手せねばならぬか。至極面倒な話ではあるな」




