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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第三章 戦陣
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その弐拾五

「何せ、先生は米山麟太郎の再来とまで云われている上、数少ない蒼の柄糸を許されている名将だからな。こういう事態になったからには、敵が一番怖れているのは先生だろうさ」

 我が事の様に、慶一郎はそう自慢した。

「四名家の一つ、米山家か。百万石を許された唯一の大大名。今も昔も、有事の際には一番最初に動員が掛かる武の柱。そして今も又、中央山脈を越えて中央と南部域の狭間にあるリングラスハイムに駐留中。援軍を求めようにも、当主不在では動けず終い」

 冷静な口調で仁兵衛は呟く。

「最後の一つ、阿賀は所領を持たない大身旗本が多い。その上、一門の主要な家は大抵自由都市の東大公家の代表として出向中。こちらも動きようがない」

「細々としたところが勤王の意を持っていても、纏める将がいないから系統だった動きの仕様が無い。なんと云うべきか、考えれば考えるほど詰んでいるな」

 やっと事の重大さに思い当たり、仁兵衛は苦い顔付きになった。

「それでも、俺達が来た為に流れは多少変わった。まあ、やれることからこつこつとやるしかあるまい」

 慰める様に慶一郎は笑いかけた。

「……そうも云っておれん。宮城の図面を持て!」

 思考の迷宮から解き放たれるや否や、兵四郎は配下の者に鋭い声で指示を飛ばした。

「先生、何か思い当たったので?」

 突如、精彩を取り戻した兵四郎に慶一郎はにやりと笑いかけた。

「フン。儂らの愚かさがな」

 答えにならない答えを返し、広げられた図面を指さし、「姫様、上様から入るなと云われた部屋はいずれでございますかな?」と、訊いた。

「うーんとね……。たしか、ここかなあ?」

 光が指さした場所を見て、

「鳳凰殿から近い、か。ならば、この手が使えるか」

 と、呟く。

「先生、一人で納得するのはよして下さいよ。判断のしようがないじゃないですか」

 戯けた口調の慶一郎を無視して、

「仁兵衛、慶一郎。お主ら、すぐに出られるか?」

 と、赫々(かっかく)とした強い眼差しで二人を見据えた。

何処(いずこ)に?」

 瞬時に戦人(いくさびと)の鋭い目つきを浮かべ、仁兵衛は不敵に笑う。

「愚問ですな、先生」

 自然体のまま、慶一郎はにこりと笑う。

「ならば良し。概略を説明する。お主らの働き次第で東大公家の将来は決まる。存分に働けい」

 厳しい表情を崩さず、兵四郎は二人を屹度(きっと)見詰めるのだった。

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