その弐拾参
「まあ、太刀筋は違う様に見えるがの。足捌きと、“気”の練り方が上様と瓜二つではのお」
兵四郎は豪快に笑い飛ばす。「隠しているつもりならば、修行が足らんわ、お若いの」
「……見る者が見たら直ぐに気が付く、と」
「お主が上様の高弟である証拠は、の。その上、あの【刃気一体】。誰しもが気が付いたはずじゃよ、お主が既に【旗幟八流】の当主に比肩する実力者じゃと。その結果がこれじゃよ。【義挙】の絵図面を書いていた者は慌てて計画を立て直し、儂らはそれを読めずに後手に回る。お陰で随分と混沌としてきおったわ。まあ、仮に今回の件を読んでいた者がいるとするならば……上様ぐらいであろうな」
「父上が?」
「お主らが予選に参加した事は計算して居らなかったじゃろうが、上様のこと。御前試合本戦にお主らをねじ込むぐらいの芸当はやってのけたであろうよ。……いや、そうなるとすれば、上様ですら、この展開は読み切れておらなかった可能性が高い、か?」
突如厳しい表情になると、兵四郎は考え込んだ。
「先生?」
「時間が、ないやもしれん。儂らが考えている以上に、敵が追い詰められておるやもしれぬ。はて、これは厄介やも知れぬぞ」
急に落ち着き無く、顎髭を扱きながら辺りをうろうろし始め、ぶつくさとなにやら呟き始めた。
「……やれやれ。どうやら先生がなにやら思い当たるところを見つけてしまった様だ」
肩を竦めて慶一郎は苦笑した。
「どういうことだ?」
「先生の修めている鷹揚真貫流はな、【旗幟八流】の中でも特殊でな。兵法と兵法の両方を教えているのさ」