その弐拾弐
「どういうことじゃ?」
兵四郎は首を傾げた。「如何に仁兵衛が手練であれ、柴原か阿賀の血を引いていない限り、柴原神刀流の当主にはなれまい。東大公位に就くには、柴原神刀流の当主であることが最低条件。壱から流儀を作り、【旗幟八流】に昇格せぬ限り、【奥之院】があるとして、入ることは出来まい?」
兵四郎の言に、当の仁兵衛と沙月は正にその通りとばかりに首を縦に振った。
柴原神刀流は【旗幟八流】の中でもある意味で特殊な流派である。
初代と二代目の東大公がその技を修め、方や冒険で、方や戦場でその武を存分に発揮した。
雷文公は特に言い残さなかったのだが、東大公家の武を担った竜武公は自らの後継者の条件として、柴原の血、もしくは扶桑の国より渡ってきた二人の内親王のいずれかの血を引くことと、柴原神刀流の当主であることを定めた。
その為、柴原神刀流は【旗幟八流】の一位の座を常に得る事となった。
「まあ、厳密に云えば、確かにそうなんですがねえ。ただ、柴原神刀流にだけは例外がありましてね。当主は東大公が兼任しますが、最高の使い手とは限らない訳で。そこで、東大公になる貴人が当主、最高の使い手が総師範代として当主の代わりを務めることが認められている訳でしてね。次代の東大公が誰になるかは分かりませんが、総師範代になるのは間違いなく、相棒でしょう?」
慶一郎は口伝を披露し、「まあ、どう転んだにしろ、こいつが【旗幟八流】の一角を占めるのは確実でしょうよ」と、断言した。
「確かに、お主の云う通りじゃろうな」
兵四郎はあっさりと認める。「誰が東大公になろうとも、仁兵衛より優れた兵法者が柴原神刀流から出ないであろう」
「俺が柴原神刀流なのは確定事項なのですか?」
仁兵衛は困った顔で呟いた。