その弐拾壱
顔を朱に染めて憤慨する兵四郎に、
「だからこそ、師匠が置いておく訳ありませんよ。“東大公家最強の武人”の二つ名、伊達名じゃありませんからねえ。予選のこの時期に中央山脈の向こう側に出陣させたの、然ういう意図だろう、沙月ちゃん?」
と、沙月に尋ねかけた。
「そうなのではないかと思います。当主は本戦に出ることが決められていますけど、他の方は予選突破が条件ですし。それに、あの御方は上様至上主義者でしたから」
「その上、師匠に勝てる可能性がある唯一の存在だったからなあ。それは早い時点で追い出す算段立てられたでしょうよ」
肩を竦めて溜息を付き、苦笑を浮かべた。
「その後、お主らが来たのは計算外であったようじゃがのお」
兵四郎はちらりと沙月の方を見る。
「そうみたいですね。慶一郎殿の方は気まぐれで参加しかねないとの危惧はあったようですけれど、仁兵衛様の存在は完全に考慮の外でした」
「そりゃあそうじゃろうなあ。儂とて、上様に猶子がいる事は知っておっても、斯様な腕利きとは知らなんだよ」
如何にも楽しそうに笑い飛ばし、兵四郎は満足そうに頷く。「あと、この中で宮城について詳しいのは姫様だけじゃが……。何か、知りませんかのお?」
「んー」
光は仁兵衛を見上げてから、「父様が、絶対入っちゃ駄目って行っていた部屋ならあるよー。にーちゃなら、いずれ入ることもあろうとか」と、答えた。
「相棒がいずれ入ることになる、ねえ。多分当たりでしょうなあ、その部屋」
皆がその答えの理由に悩む中、慶一郎は自信満々ににやりと笑って見せた。