その弐拾
「だからこその【義挙】か。成程、理には適っている」
つまらなそうに仁兵衛は溜息を付いた後、ふと友人の方を見る。「急に静かになったな、友よ」
「……いやな、【旗幟八流】の当主に匹敵する人間が少なくとも二人もいるのに、誰も云い出さないことに対して疑問を持ってな」
「何の話じゃ?」
茶化すところ一つ無い真摯な口調に引かれたのか、兵四郎は水を向けた。
「【奥之院】ですよ、先生。御存知ないので?」
不思議そうな口調で慶一郎は聞き返した。
「実在するのか?」
疑念を抱いた眼差しで、兵四郎は慶一郎を見据える。「【旗幟八流】の当主のみが入ることを許された特別なる場所。儂とて聞き及んだことはあるが、永らく宮城に勤めた時もその存在を確認出来なかったのじゃぞ? 良くある噂話に過ぎないのではないのか?」
「その裏付けの為にお二人に聞いたんですけどねえ」
沙月に視線をやりながら、「沙月ちゃんは聞いていないのかい?」と、尋ねた。
「申し訳ありませんが、その種の話を受け継ぐ前に先代が亡くなっておりますので……」
申し訳なさそうに沙月は答えた。
「そう云うからには、お主は知っておるのじゃな?」
慶一郎の発言から確固たる自信を感じ取り、兵四郎は確認を取る。
「自分で見たもの以外、余り信じない方なんですがね。こいつは家の口伝なんで、在ること自体は信じていますよ。まあ、家の流派の次期当主は兄者なんで、俺は一切聞いちゃあいませんがねえ」
最後の一言を苦笑混じりに慶一郎は口にした。
「一色助三郎義晴、か。あやつが居ったら、斯様なことにはならなかったモノを……!」




