その壱拾七
「はい、おはようございます、姫様……。──姫様ッ!?」
突如頭に掛かっていた靄が払われたのか、沙月は驚きの声を上げた。
起き上がった途端、米搗き飛蝗のように頭を低く叩き付け、
「申し開きようもございません、姫様ッ!」
と、開口一番謝罪した。
「大丈夫だよ、沙月ちゃん。にーちゃがいたから、平気だったよ」
朗らかな笑顔で、どうでも良いこととばかりに光は沙月の謝罪を聞き捨てた。
「そうは云われましても……」
「平気だよー。にーちゃがいてくれるんだもん。何があっても大丈夫なんだよ」
縮こまる沙月を労るように、光は自信満々に言い切る。
「おいおい、凄い信頼だなあ、相棒」
にやにや笑いながら、慶一郎は肘で仁兵衛を突く。
「全く……。何であそこまで云い切れるものか……」
努めて顔を厳しくすることに失敗し、顔を綻ばていた。
床机を配下の者に手渡してきた兵四郎が戻った早々、
「姫様も、遠藤の嬢ちゃんもその辺にしておいて貰えぬかの。今は時が惜しいでな」
と、責付く。
光は多少名残惜しそうに沙月の元を離れ、仁兵衛の側に歩いて行った。
「如何様にも扱い下さいませ。覚悟は出来ております」
神妙な面持ちで、沙月は平伏した。
「別に何も取って喰おうとしておるワケではないわ。ただ素直に答えてくれればよい」
兵四郎は居住まいを正し、「それで、何故あちらに付いた」と、厳しい口調で問い糾した。
「何を云っても言い訳になってしまいますが──」
沙月は自分が知りうる事を大まかに全て話した。