その壱拾六
「俺が、か?」
急に話を振られ、仁兵衛は思わず戸惑った。
「消去法でな。先生と俺は大鎧を着ていて不向きだ。姫様にやらせるワケにもいくまい? すると、お前さんしか残らないって寸法だ。別段不思議な話じゃないさ」
「……ああ、道理だな、確かに」
なにやら煙に巻かれた心境で、仁兵衛は答える。
「それに、お前さんなら、自分の間合いで負けることはないだろう、相棒?」
にやりと笑い、慶一郎は仁兵衛の肩を叩いた。
「分かった。それで、どこに降ろせばいいのだ?」
「ならば、この敷布の上に寝かすかの」
兵四郎は立ち上がると、床机をたたみ、足元に敷いてあった虎の敷物を空ける。「流石に地面に直に寝かせるのは気が引けるでのお」
光が何かあってもすぐに兵四郎と慶一郎の二人が盾になれる位置にいることを確認してから、仁兵衛は慎重に沙月へと近づき、馬から丁寧に降ろして抱き抱え、そのままゆっくりと敷布に横たわらせた。
すぐに光がその脇にやって来て、
「沙月ちゃん、お仕事終わりの時間だよー。早く起きてよー」
と、三度声を掛けた。
「起きてます!」
そう言うや否や、沙月は飛び起きた。
それから、急に左右を見渡し、見覚えがない風景に混乱し、頭を振る。
そんな沙月に、
「おはよう、沙月ちゃん」
と、光は満面の笑みで挨拶を掛ける。