その壱拾五
「ま、そこが上様の良いところじゃて。だからこそ、“一統派”の連中から目の仇にされるんじゃろう。初代の生まれ変わりとまで云われる上様の元では、奴らの望む戦など出来ぬからのお」
かんらからと豪傑笑いを飛ばしながら、沙月を見る。「ま、詳しい話を聞かねば、連中の企みが分からぬし、上様を救い出す為の策も練れぬからのお」
「このままいけばもう少しで目を覚ましそうですが、ここで起こすんですか、先生?」
真面目な顔で、慶一郎は兵四郎に確認を取る。
「どういうことじゃ?」
慶一郎の意図がどこにあるのか読み取れないのか、兵四郎は首を傾げた。
「いやね。いい加減、その馬から下ろすべきじゃないかな、と俺は思うんですがね? このまま起きたら、場合に依っちゃあ、碌な事にならない気がするんですがねえ」
沙月を横目で見ながら、「俺にだって覚えがあるんだ。先生だって、馬上で居眠りして落ちかけたことあるでしょう?」と、微妙な表情を浮かべた。
「……否定はしにくいの、それは。まあ、この場所ならば問題なかろう。ここからでは儂らの根拠地にたどり着けぬからの」
「……先生、もしかして山中に罠を張り巡らしているんじゃないでしょうね?」
何かを思い出したのか、嫌そうな表情を浮かべ、慶一郎は怖ず怖ずと尋ねた。
「当然じゃろう? 場合によっては籠城からの逆撃を想定した攻撃を仕掛けるつもりじゃしな。常に戦場に在る心持ち、それこそが儂らの役目故にのお」
慶一郎とは対照的に、呵々大笑とばかりに笑い飛ばし、如何にも楽しそうに言ってのけた。
「いや、まあ、それはそれで正しい態度なんでしょうけどね……」
奥歯に物が挟まったかのように、慶一郎は口を濁す。「……まあ、いいや。俺には関係ない。相棒、沙月ちゃんを降ろしてやりな」