その壱拾弐
「光はこの方と知り合いなのか?」
目の色を変えた二人を後目に、仁兵衛は妹に事情を尋ねた。
「そーだよ。沙月ちゃんはこないだまで、光と遊んでくれたんだよー。とっても良い人なんだよー」
無邪気に沙月を誉める光に、
「そうか、それは良い人だな」
と、笑みを浮かべた。
「うん!」
光も又、満面の笑みで頷いた。
「それならば、何故、彼女は我らに敵対したのだろう?」
妹の懐き方からして、本来ならば敵に回るとは思えない人物だと看破した仁兵衛は、不思議そうに首を傾げた。
「ああ、余りこっちに来てなかった相棒は知るはずもねえか。この嬢ちゃん、遠藤沙月は橘の一門でな、五月雨流弓術の使い手として結構名が知れているのさ」
「付け加えるならば、五月雨流の当代になる前は奥向きの女官をやっておっての。まあ、云ってしまえば、姫様付きの護衛よの」
慶一郎の軽い説明をこれまた手短に兵四郎は補足した。
「成程。親父様が信を置いていたのか」
沙月の立ち位置をなんとなく理解した仁兵衛は深々と頷く。「だとしたら、より一層謎が深まる訳だが……」
「云いたいことは分かるがの、本人望まずとも巻き込まれることもあるわな。特に、権門の末流ならば猶更、の」
苦い表情を浮かべ、兵四郎は吐き捨てた。
「むしろ、先代の当主もうちらの陣営じゃありませんでしたか?」
はたと思い当たったのか、慶一郎も逆に納得がいかない顔付きとなった。




