その壱拾壱
「それは過小評価が過ぎるぞ、若いの。そこな年寄りに敬意の払わない若造の戦場での名声は世に知れ渡ったものであるし、それに打ち勝った【刃気一体】を無制限に使いこなす使い手が、東大公の猶子とならば敵も慌てようものさ」
くつくつと低い声で兵四郎は嗤った。
「まあ、それで敵が慌てて、誰もが御前試合本戦中に何かを仕掛けてくると思っていた中、前倒しで実行されたとなっては、ある意味で上手い奇襲にはなってしまったのは皮肉な話ですがねえ、先生」
何とも言えない微妙な表情で、慶一郎はぼやいた。
「まあのお。そこら辺も含めて、この嬢ちゃんに話を聞こうかと思っていたんじゃが……。このままじゃと、一日ぐらいは昏倒していそうじゃなあ。どうしたものかのお」
心底困った顔付きを浮かべた。
「いや、どうしたものかのお、って先生?」
余りの言い様に、慶一郎は思わずぽかんとした顔になる。
「儂にとて、どうにもならん事じゃて、な」
処置無しとばかりに、大きな溜息を付いた。
何か手はないか明火に尋ねようかと仁兵衛が考えた時、それまで黙っていた光が沙月の側に近づき、
「沙月ちゃん、お仕事中に寝てちゃ駄目だよー」
と、声を掛けた。
「またまた姫様。そんな事で起きるワケ無いでしょうが」
流石の慶一郎も苦笑しながら、光に声を掛ける。
「……よく見ろ、若造」
「何です、先生?」
怖ろしく真面目な顔付きの兵四郎を見てから、「こいつは……」と、沙月を眺めて驚きの表情を浮かべた。
それまで静かな寝息をたてていた沙月が、僅かに微動していたのだ。