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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第三章 戦陣
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その壱拾

「ま、そうじゃろうの。儂が知りうる限り、この娘は先代当主が急死した為に繰り上げで当主になった様なものじゃからのう。初陣は済ませてあろうが、【刃気一体】、それも当主格同士の真剣勝負など、経験したこと無かろう。それ故の、落とし穴に気が付かぬのも道理。そして、お主ら若い癖に、【刃気一体】を十二分に使いこなしておれば、その限度について理解が遅いのも致し方あるまいて」

 勘の悪い二人に苛立つことなく優しげな口調で、兵四郎は諄々(じゅんじゅん)と説いた。

「ははあ、分かってきましたよ、先生。要するに、俺達の【気】の内包量が大きすぎて、年齢相応の力量を凌駕しているから同年代の見立てに失敗しているって事ですね」

 ぽんと手を打ち、得心がいったとばかりに頷いた。

「大雑把に云ってしまえば然ういうことかのお。この遠藤の嬢ちゃんもその年齢からは考えられない手練なれど、いかんせんお主らほど常人離れしておらんという事だ。その上、ほぼ無尽蔵の【気】を用いる相手に、全力で立ち向かえばどうなるかという話じゃな。付け加えるならば、五月雨流の【刃気一体】は怖ろしく細やかな【気】の制御を必要とする。この程度で済んで、御の字という事じゃな」

 兵四郎はふっと笑い、「並みの使い手ならば死んでおるわ」と、肩を竦めた。

「成程。……ん? するってえと、この時期に何で連中が動いたのか不思議に思いましたが、もしかして、俺達の所為で均衡が崩れたんですかね?」

「その可能性は否定できんのお。少なくとも、儂らの側から見れば敵方の動きに焦るほど、不利になった要素がないワケじゃからな」

 にやにや笑いながら、顎髭を撫でた。

「たかだか二人の手練が客分として迎え入れられた程度で軽々しく動いた、と?」

 一人納得がいかない仁兵衛は、不思議そうな表情を浮かべる。「我ら程度の使い手ならば、抑え切れましょうに」

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