その八
「爺とは遠い親戚なんだよー」
そう自慢げに話す光に、
「そうなのか? 親父様からはそんな話聞いた記憶がないのだがなあ」
と、仁兵衛は考え込んだ。
「それはそうじゃろう。姫様の御母堂様が儂の一門の本家筋の姫だったという話に過ぎんからの。とは云っても、その姫君は庶出だったのだがの」
何かを思い出すかの様な遠い眼差しで、兵四郎はふっと息を吐いた。
「まあ、年寄りの昔話は長くなりそうだからとっとと話進めましょう、先生。今は悠長にしている暇はない」
「それもそうじゃの。流石の上様でも今のままではどうなるか分からぬしの」
年寄りの繰り言扱いされたことに怒りもせず、兵四郎はすんなり意識を切り替える。「……それにしても、なかなか目を覚まさぬの。様子見に狸寝入りでもしているのかと思ったんじゃが、どう見ても熟睡しきっておるの」
「腐っても【旗幟八流】の当主ですしなあ。こちらの隙を窺っているものかと疑っていましたが、そんな様子がちっともありませんなあ」
二人は首を捻り、仁兵衛に顔を同時に向けた。
「俺を見られても困る」
溜息を付き、仁兵衛は首を横に振った。
「俺はお前に任せてこっちに向かったから、どう戦ったか分からないんでね。本当に心当たりはないのか?」
「そう云われてもな……」
心底困った顔の仁兵衛に、
「ふむ。ならば聞いておきたいんじゃがの、どのくらい戦っておったんじゃ?」
と、兵四郎は尋ねた。




