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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第三章 戦陣
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その四

(これは、違う道で招待したいと云う事か?)

 心中で仁兵衛は首を傾げてみせる。

(幾通りかの道があること自体は不思議ではないのでは?)

(これより先が戦陣であることを考えれば、幾通りの道があるのは当然だろうさ。用心ではあるんだろうが、態々他の道を使うと言う事に意味があるのか悩んでな)

 馬の上でぐったりと運ばれている女武芸(おんなぶげい)を見て、(まあ、俺なら楽な道で立ち入れさせないか)と、納得した。

(確かに。明らかに敵と分かっている手練を引き入れようとは思わないでしょうね)

(捕虜として扱うにしても、本拠地に御案内はしてくれないか)

 慶一郎の通ったであろう道を横目で見ながら、仁兵衛は素直に誘導されていった。

 街道から脇道に逸れ、更に獣道とも何とも見分けがつかない道なき道を進み、唐突に開けた場所へと出る。

「ようこそ、地獄の一丁目へ」

 百戦錬磨という表現が相応しい老人が、如何にも楽しそうな野太い笑みを浮かべ、床机(しょうぎ)に座っていた。

「貴殿は?」

 自然体のまま、仁兵衛は老人に問いかけた。

「儂か? 儂はここで地獄の鬼どもを取り纏めている者よ。名はひ──」

「よお、相棒。遅かったなあ」

 老人の台詞に被るかのようにどこからともなくやってきた慶一郎が仁兵衛に駆け寄る。「それにしても【旗幟八流】の当主相手に打ち勝つとは、お前も本当に──」

「にーちゃああああああああ」

 更に慶一郎の言葉を遮って、光が仁兵衛に怖ろしい勢いで抱きついてきた。

「こら、光。はしたないぞ」

 叱責(しっせき)の言葉とは裏腹に、優しい顔付きで妹の頭を撫でる。

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