その五
「ま、小父さんらしい感想ですね。小父さんの人類種好きは、人間生まれの僕ですら思わず身構えてしまいますよ」
イアカーンは思わず苦笑しながらも、結界の大きさを徐々に狭めていく。
「君が世界に仇為さない限り、私は手を出す気は無いよ? まあ、この糞虫は本当に困ったものだがね」
イアカーンに対して親昵そうな口調だったのが、結界の中で虫の息となっている魔王に対しては嫌悪の情を隠そうともしない冷淡な態度を示した。
「どちらにしろ、これに苦労させられるのは今日で終いです。全く、リングラスハイムの時に現場に居て見逃すとは、一生の不覚でしたよ」
イアカーンは溜息を付き、吹き荒れる空間ごと一気に結界を圧縮する。
逃げ場の無い結界の中、魔王は驚愕と恐怖に塗れた声を上げ、この世から痕跡を一つ残らず消えていった。
「はい、これにて一件落着、ですね」
晴れ晴れとした爽やかな笑顔でイアカーンは宣言する。
「当然、我らの仕事は闇に葬るという意味で、だが」
アルヴィースは含み笑いで返す。
「僕たちが目立っても意味ないですしね。それにしても、今回ばかりは東大公家に我々の尻拭いをさせてしまいました。この借りを早めに返せれば良いんですけどねえ」
深々と溜息を付きながら、剣を鞘に収め、「小父さんはこれからどうするんです?」と、尋ねた。
「何、今回の件を世界中で歌ってくるさ。これだけ素晴らしい話を我々だけの内輪話にするのは誠に惜しい。やはり、英雄は広く知られてこそ価値がある。うむ、君の家系は本当に良き定めを引き寄せる。千の感謝を」
優雅に一礼すると、アルヴィースは来た時と同じく闇に溶け去って行った。
「小父さんに感謝される時って、何時も面倒事絡みなんですよねえ。さて、僕は後片付けしたら久々に南部域の居城に帰りますかねえ。兄さんに仕事押し付けっぱなしですし」
クスクスと笑いながら、イアカーンも又、虚空へと姿を消す。
まるで最初から何も居なかったかの様に、その場には静寂だけが残った。




