その四
「全く、通常業務に差し障るんですよ、この様な異常事態は。ここ百年、東大公家絡みのおかしな事件がどうにも多かったわけです」
百年分の憤懣を噴出させ、クラウスは片手間に魔王周辺に結界を張る。「これ以上逃げられて手間増えるの嫌なので、片を付けさせて頂きます。【マキシマムテンペスト】」
──十文字詠唱だと?!
圧縮言語による詠唱は、当然文字数が増えれば増える程取り扱いが難しくなる。ただでさえ、一文字に含まれる情報量が莫大なのだ。並の魔導師ならば、五文字までが精一杯で有り、天才と呼ばれる術者でやっと八文字がせいぜいと言われる。人間と魔王の条件は違うとは言え、一文字当たりに篭められる情報量が莫大なために九文字の術式が限界と言われる。六大魔王の中でも魔導を極めていると言われている二柱、第二位の冥界の女帝及び第三位の放浪の吟遊詩人ならばそれを越える大魔導も使いこなせるのでは無いかとは噂されていた。
「ハームの御箱か。ウルシムの怒れし雷神と云い、よくもまあ使いこなす」
呆れた口調で、アルヴィースはクラウスを眺める。「流石はあの二人唯一の血を引く男と云った処か、イアカーン」
「あの二人もいちゃついていないで、仕事して欲しいんですけどね。全部僕に丸投げって、流石にどうかと思いますよ。雷刃小父さん居なければ、一体僕の仕事量ってどんなモノだったんですかねえ。アル小父さんはこういう時じゃないと手伝ってくれないし」
余裕の表情で十文字詠唱の術とそれを外に逃がさない結界を同時に発動させた儘、最早正体を隠そうともせずに南の魔王イアカーンは軽口を叩く。「それで、今回の演目を特等席から見た感想はどうだったんです?」
「いやはや、いやはや。昨今まれに見る素晴らしい、実に素晴らしいお話だったよ! 我々がついぞ見つけることが出来なかった魔王をたった一人の兵法者が精神的に追い詰め、そして魂すらも追い詰める! その兵法者は彼の柴原雷刃の唯一の直系。孤児だったところを拾った父親と義妹を救う為に命懸けで魔王に煽動された同胞、それも西中原最強を誇る【旗幟八流】の当主達を薙ぎ倒し、黒幕の魔王をも叩き斬る! ああ、これほど素晴らしい英雄譚が私が自我を得て以来どれだけあったか! この一件を歌にすれば、ウルシムと雷刃の二人に匹敵する好評を博するだろう! ああ、何と素晴らしい事件の渦中に私は関われたんだろう! これだから人を愛することを止められない! 魔術を、魔導を、そして英雄譚を私は飽くなき情熱を以て人類に捧げ続けよう! 何故ならば、私はこの世界を愛しているのだからッ!!」
アルヴィースは目を爛々と光らせ、凄く嬉しそうに、楽しそうに切々と語る。




