その参
「父の力を使いこなせるのです。母の魔導とて僕が使えない理由が無い」
クラウスは笑いながら、器用にも左手だけで印を切り、「【マキシテンペスト】」と、新たな術を解放する。
当然の様に、先程よりも文字数が増えた為、暴風の威力は怖ろしい程跳ね上がっていた。
──く、お前の様な慮外者と相手をしていられるか
魔王はどうにもならぬ圧倒的な力の差を覚り、この場から離脱しようとする。
【門】を開けて魔界に逃げるともなれば大きな力と時間が要るが、相手から姿を隠す程度の逃亡ならば圧縮言語すら用いずに転移出来ると踏んだのだ。
クラウスはそれをニヤニヤと笑いながら眺め、止めようともしなかった。
──その余裕、後で後悔するが良い……儂は必ずや……?!
転移しようとした力がその場で突如霧散し、魔王は余りの展開に混乱を来す。
「ねえねえ、逃げようと思って逃げられないってどんな気持ち、どんな気持ち? 僕はそんな失敗したこと無いから分からないんだ。教えて欲しいなあ?」
腹を抱えて笑いながら、クラウスは魔王に嫌味ったらしく問い糾す。「あんたのやったことで腹を立てているのは何も僕の一族だけじゃ無いんだよ? 全方面に喧嘩売りすぎだ。法の陣営に対するための行動だったり、人類種が阿呆なことをしでかしたから、その警告の為に動くのならば兎も角、自分の利にしかならない事を成すが為に現世を混乱に陥れるのを喜ぶ存在が居ると思っているのかね?」
途中から真剣な表情で糾弾し始めたクラウスの傍に、いつの間にやら楽器を携えた伊達男が弦を爪弾きながら立っていた。
──あ、アルヴィース……?!
「呼び捨ては聞き捨てならんな、恥曝しの糞虫よ」
誰しもが聞き惚れる様な次低音声で吟遊詩人は冷たい視線で睨め付ける。「百年前に滅んでいれば良かったものを面倒事ばかり引き起こすとはな。お陰で六大魔王が三柱も雁首揃える羽目に遭うとは」




