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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
間章 舞台裏
181/185

その弐

 そして、先に動いたのはクラウスであった。

「まあ、どうでも良いか。ここで滅ぼす相手に、ぐだぐだ云っている暇は無い」

 魔力の篭もった文字を刃に刻み込んだ特殊な意匠の幅広剣(ブロードソード)を天に掲げ、「我が父、雷と知識の神の名の下に、世界に徒なすモノを討つ力を求めん。降り注げ、雷神の怒り(マッドサンダー)」と、奇跡の顕現を祈願する。

 立ち所に虚空より無数の稲光が顕れ、魔王目掛けて降り注ぐ。

 魔王は慌てずに障壁を張り、【門】を開けることで荒れ狂う雷を他の世界に飛ばす。

「【テンペスト】」

 剣の(きっさき)を魔王に向け、クラウスは力ある言葉を解放した。

──圧縮言語だと?!

 今度は(たけ)る暴風を受け流しながら、魔王は驚きを隠せずにいた。

 魔導とは魔界の森羅万象に当たるものであり、それを現世に導くための術が魔術である。

 魔王ともなれば、魔術を用いずとも意志の力で混沌の力を取り出し、ある程度の力を使いこなせる。

 しかし、魔王と(いえど)も、莫大な力を導き出すためには魔術言語を用いた術式が必要となる。

 大きな力を使おうとすればするほど、複雑で煩雑な手順が必要となり、魔王でもおいそれと戦闘中に使いこなせる余裕は無くなる。

 当然、魔王よりも力の劣る存在はその傾向はもっと強く、戦闘中に術者が単独で長い詠唱を唱える事は自殺行為と言えた。

 そこで、魔導に優れるとある魔王がいくつかの魔術言語を魔導の法則に従い一文字に取り纏めた圧縮言語という概念を創り出した。

 当然力在る言葉を一つに纏めた為に取り扱いは難しく、一つの文字に内包する魔術言語数は使い手の力量次第になるが、それでも無防備に長々と詠唱するよりは安全に強大な術を展開できるようになった。

 魔導師が並の魔術師十人に匹敵すると言われる所以は、この圧縮言語の存在にある。

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