その壱
本当に紙一重であった。
かつての最盛期であろうと、防ぎ得ない一撃を喰らった瞬間、一も二も無く、慌てて核から逃げ出した。この場の特性である気配を読みにくい事が功を奏し、誰にも気付かれる事無く逃げ出す事に成功した。
反撃の為に取って置いた全ての力を生存に回し、扶桑人共がこの場より消えてから【門】を開いて魔界に帰らざるを得なかった。
──口惜しかれど、滅んでは元も子もないわ。力を蓄え直し、再び現世に返り咲いて見せよう
「うん、それ無理だね」
軽い口調なれど、怒りに溢れた感情を隠そうともせず、虚空に浮いた男が見えないはずの魔王を見据えて吐き捨てた。
──貴様、何やつ?!
気配が読みにくい空間とは言え、その場にその男が居る事すら気が付かなかった上、自分の姿を見つけ出している事に驚きを覚えながらも、落ち着いた振りをしながら問い返す。
「あー? 僕の事を忘れたの? 巫山戯ているの、舐めているの、ぶち殺すぞ、クソ魔王! こちとら、リングラスハイムの時から必死扱いて貴様の痕跡を追って苦労してきたというのに、何だ、その態度は!」
逆上しながら、クラウスは得物を鞘から抜いた。
──リングラスハイム? ……ああ、女帝の小倅か
魔王は鼻で笑う。
「その小倅に追い詰められたのは何処の何奴だったかね。中々口だけ達者な三下がいるみたいだな」
丁々発止の挑発を交わし、お互いに相手の様子を観察する。




