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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第六章 魔王
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その四拾六

 踏み込むと同時に数多の触手と骨の槍衾が仁兵衛に襲いかかってきた。

 それら一つぐらいならば動きを止めることもないだろうが、空間を制圧する数の暴力ともなれば話は別である。

 本来ならば退かねばならぬ場面、それでも仁兵衛は悩まず太刀を振るう事を止めない。

 次は無いと体力が訴え、技は相手に見切られつつあり、心はそれら全てを受け入れ決断した。

 それ故の不退転。

 だからこそ、最も意志が煌めく手の内にある最高の技を選んだのだ。

(この魔王だけは俺が倒す。例え、どうなろうとも、だ)

 逆境は仁兵衛の意志を更に強くし、気力は漲り、闘志は燃え立つ。

 既に、己の命を捨て去っている兵法者にとって、その罠は塵芥よりも価値が無かった。

 そして、その考えこそが、魔王の思う壺であったのだ。

 大技を放った直後の為、慶一郎は初動が遅れた。

 それすらも対処して止めを刺せただろう帯刀は最初に脱落している。

 お互いに相打ち覚悟の一撃ならば、ただの人である仁兵衛が六大魔王に勝てる道理は無かった。

「我が命、この一矢に全てを懸ける!」

 当然、この機会を除けば最早文字通り一矢を報いる事など不可能と悟った沙月が己の身体を顧みずに大技を仕掛けてくる事も魔王からしてみれば予測の範疇であった。

 そして、それを止める手段など仁兵衛や慶一郎を相手するよりも単純であった。

 結界に護られていようとも、沙月との繋がりは未だに健在である。それを伝い、沙月の魂に穿ち込んだ呪いを強く押し込み、呪殺すれば事足りた。

 漸く取り戻した意志の力に魔力を乗せ、魔王は沙月を無力化しようと動く。

──余の魔力が掻き消されているだと?!

 力の波動が発動すらせず、魔力は霧散していく。

 妙なる弦歌がにどこからともなく聞こえてきていたが、それを認識出来ている者はこの場には居なかった。

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