その四拾五
未だに切り札を持っていたことは計算外であったが、それを使わせたことは大きかった。
元より狙いは、一番危険である仁兵衛と相打ちに持ち込むことであった。
核を潰されても今暫くは身体を保っていられる。その際にこの場で唯一自分を滅ぼすだけの手を持つ仁兵衛だけは殺しておかねばまずかった。
本来ならば、宿主やそれに同調していた者の心に違和感を気が付かれる事すら覚悟して大きく危機感を植え付けた時点で排除出来ていたはずなのである。
それが、用意した全ての罠と策を駆逐して、この場に、それも滅びるかどうかの瀬戸際まで追い詰める場所までやって来ているのだ。
だからこその、最後の罠。
ここまで全て本命でありながら、最後の一手を不可避にするためだけの布石である。
「助かった、相棒!」
左太刀に構え直し、ここが正念場とばかりに仁兵衛は全ての力を金剛丸に篭める。「明火、決めるぞ!」
「全て、主様の御心のままに」
明火もまた、勝負を付けるべく残った力を全て振り絞った。
「いざ、勝負ッ!」
乾坤一擲、仁兵衛は気合声と共に今までの中で最も美しい太刀筋で魔王の核を目掛けて金剛丸が走る。
そして、それは魔王にとっても乾坤一擲の大勝負の懸け処であった。
先程の慶一郎の一撃による衝撃は未だに抜けきっていないものの、仁兵衛が左太刀右上段に拘り続けていた為に最後に選ぶ技が何であるかぐらい予測が付いていた。
従って、それに対応する策も容易く準備することが出来た。
(主様ッ!)
明火の悲鳴の様な警告と、仁兵衛が魔王最後の罠に気が付いたのはほぼ同時であった。




