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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第六章 魔王
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その四拾四

 故に、仁兵衛が右上段に構え、右手を太刀から手放すとは思っていなかったのである。

 そのまま太刀を重力の儘滑らせ、左太刀の構えを取ろうとする。

──余が、それを見逃すとでも思っておるのか?

 魔王の方も、仁兵衛が一撃で勝負を決められないと悟っていること位は読んでいた。

 そして、その一撃目をどう足掻こうと受ける事もである。

 最盛期ならば兎も角、現在力を取り戻そうと足掻いている状態で、兵法者として既に並の魔王を越える腕を有する達人とそれなりの力を有する竜が発する【竜気】の焔を受けている状態で集中力を保てると過信してもいなかった。

 故に、一撃目が終わった時点で即座に狙った反撃を出来る様に様々な仕込みをしていた。

 例えば、両脇から一対の腕を作り出して即座に攻撃させる、その様な罠を、である。

「だから、やらせねえって云っているだろうが!」

 怒号と共に、慶一郎は(えびら)より独特の雰囲気を有する二(すじ)の鏑矢を手にする。「水破、兵破、俺に力を貸せ!」

 傍の眷属を全て吹き飛ばした後、恐るべき速さで騎射の態勢に入り、目にも止まらぬ早業で二筋の鏑矢をそれぞれの腕へと連射した。鏑矢は咆哮を上げ、それぞれの腕を文字通り喰らい尽くす。

──ガハッ!?

 当然妨害されるものと計算していたが、それでも予想の上を行かれることは間々ある。この時の慶一郎の鏑矢も魔王からしてみればその様な一撃であった。

「どうだい、竜が宿った鏑矢の威力は? うちの初代様が雷上動に着想を得て、鏑矢の方に宿らせてみたのさ。まあ、流石に宿している竜は金剛丸や雷上動より劣るがね」

 悪態を吐くほど身体が受けた衝撃から回復していなかった為、魔王は慶一郎に返事すら返さず、左太刀に持ち替えた仁兵衛を見る。

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